余市町でおこったこんな話「その207 観天望気」
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「ヤマセどこ行く、タマ風迎えに、誰と行く、雨と行く」という言葉がかつての豊浜地区にありました。「やませ」は山を越えて吹いてくる風をいい、夏に発達するオホーツク海高気圧から、本州中部の低気圧や前線に向かって吹く冷たく湿った北東の風をいい、広い範囲に低温と日照不足をもたらしました。「たま風」は北西風のことで、雨や時化の前兆でした。
こうした風向や、遠くの山の見え方など自然現象や生き物の行動の様子で天気の変化を予想することを観天望気といい、日本各地にのこされています。
余市町でもいくつかあります。地形などによるものでは、①増毛の岬がはっきり見える時はヤマセ、②ヌッチの沢に雲がかかれば雨、③赤岩に雲がかかれば、シモ(北東風)となる、④増毛連山が鮮明に見えれば時化の前兆といわれました。
動物によるものでは、①キツネがかん高い声で鳴くと天気が良くなる、②キツネがキャン・キャンと鳴けば時化がくる、③シリパの山でキツネが鳴けば雨といわれました。
その他には、①シモ・アイ(北風)、タマ(北西風)は時化が多い、②雁(かり)の腹雲下り天気(雁の腹部の羽毛のような雲になれば天気が悪くなる)、③北方の空が曇る時は時化が多い、④南西上空に雲がわくと雨といわれました(『日本海沿岸ニシン漁撈民俗資料調査報告書』)。
これらは昭和40年代に記録された観天望気ですが、昭和はじめ頃の記録では、①南西上空に雲湧くと雨、②雨天、曇天と雖も南西上空に晴天見ゆるときはやがて晴れ、③北方天曇る時は時化多い、④増毛連山鮮明なる時は時化の前兆、⑤東方赤岩方面の海面黒ずみ、ガスかかる時は雨の前兆(漁師は「赤岩にボタンが咲いた」と言う)、⑥南西の風は雲多し、⑦南風、東風は雲多し、⑧北東風、北風、北西風は時化多し(沖風)といわれました(『余市町郷土誌』)。天気を予想するのには、風向に注意することと、小樽や増毛方面の見え方が大事なようです。
遠方の景色の見え方を観天望気にしている例は多く、松前町では津軽海峡の向こうの竜飛岬や岩木山、熊石町と北桧山町では奥尻島、小平町は増毛の山々、稚内市では利尻山を見ていました。
前述の豊浜地区の観天望気は、漁師さんがのこされたものです。その方も西方の雲を見て天気の変化を予測し、地域の運動会や行事の前に問い合わせを受けていたそうです。また、その方は二十四節気の寒の入りから寒あけ(令和3年なら1月5日~2月2日)の天気を事細かく記録して、それを1年間の長さにあてはめて天気を見るとかなり高い確率であたっていたそうです。
豊浜地区は風の呼び方が余市とは違いました。余市よりも「タマ」のつく風が多く、3つあって、北北西風を「アイタマ」、北西風を「タマカゼ」、西北西風を「ニシタマ」と呼んでいました。豊浜地区だけの観天望気もあって、風が変わる前にはカラスが動くといわれました。地区の古平側にある蛸穴の岬にいたカラスの群れが、反対側の滝の澗の岬に一斉に移動すると、風向が変化する前兆だったそうです。
地域にのこる観天望気は、独自のものが経験則によって作られてきましたが、必要がなくなったため、受け継がれずに消えていきます。停電や情報遮断が長引けば必要になる時がくるかもしれません。
図:豊浜地区の風の呼び名
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