余市町でおこったこんな話「その193アバ(漁網の浮き)」
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漁網に浮力をもたせる「浮き」は、網自体を水面に浮かせて場所を知るためのものでアバ、ダンブ、ダブという呼称もあります。アバは「網端(あみはし)」から転訛した言葉のようです。古くは木材を加工したものでしたが、中空のガラス玉(球)やプラスチック球があらわれ、現在は様々な素材のものが使われています。
昭和10年代の『建網のてびき』(定置網の手引書)では、「浮子」と書いて「あば」と読ませ、角材や丸太に孔をあけて作った浮きを「だぶ」として区別していました。アバの材料は木材ならヒバ、ヒノキ、スギ、キリ、ウルシ、トドマツで、他にも鉄製のブイ、コルク、ガラス玉、空樽、焼酎瓶が使われました。
アバ用木材のランキングを同書から読み取れば、第1位はヒバ(浮力が強く、水を吸わず、乾きやすい、しかし量が少なく、壊れやすい)、第2位はヒノキ(ヒバよりも水の吸収が少ない、ヒバに次ぐ浮力、耐久性は抜群)、第3位はスギ(40年以上育ったものならヒバ、ヒノキに匹敵、生育数が多い、30年以下の若い木になると質が落ちる)、第4位はキリ(軽くて取り扱いやすい、しかし高価、水を吸いやすい)、第5位はウルシ(水の吸収が最も少ない、しかし大木がない)、第6位はトドマツ(浮力がない、水を吸いやすい)でした。
材料木の切り出しは漁業家にとって不可欠な年中行事のひとつで、伐採の時期を間違うと、浮力が悪く水分を多く吸い込むことになるので、11月から3月の木質が締まっている時期が伐採に適しました。
余市町にのこっている記録では、トドマツを伐採してアバを作っていたようです。またアバ同士をつなぐ山ブドウのツルや、結束用の縄を作るためにシナの樹皮も刈り出しました。
ガラス玉は、同書中では「網具に結いつけるのに不便であるから、浮子を多く用ひる建網(定置網)には不向きである。主に刺網や延縄などに用はれる」とあります。
余市でも大正8(1919)年頃に刺網用のアバとしてガラス玉が使われました。このガラス玉はサッポロビールに注文して作ってもらいました(『日本海沿岸ニシン漁撈民俗資料調査報告書』)。
表面に縄を編んで耐久性を持たせても、ガラス玉は衝撃を受けると壊れてしまったので、当時新たな素材であったプラスチック製アバの登場は画期的でした。このきっかけは昭和28(1953)年11月、余市町の水産普及員(当時)だった大原正司さんが、ロシア製のプラスチックでできたアバを見つけてヒントにしたことでした。 カレイ底刺し網用のアバの改良を考えていた大原さんは、ふたつの試作品を作って町内白岩町の漁師さんに試験操業をお願いしました。ひとつは三馬ゴムさんにお願いして作ってもらった、木製アバをゴムで覆ったもの、もうひとつはロシア製アバを手作りで複製したものでした。試験の結果、後者が耐久性で勝ったことに自信を深めた大原さんは、水産庁あてに手作りアバと木製アバ(ウルシ)を届けました。複数のプラスチックメーカーは水産庁から届いた情報をもとに試作品を製造、刺網用アバに採用された後はとんとん拍子に普及して、北洋サケマス流し網やホタテ貝などの養殖に使われるようになり、国内はもちろん海外へも輸出されるようになりました。
写真:木製のアバ作り(時期不明 余市町)
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